桜が求めた愛の行方
『あのぉ……無理ですかね?』
難しい顔の勇斗に佐藤が恐る恐る
尋ねた。
『え?…何?すまない、考え事をしていて。
何か問題でも?』
『いや、あの壁ですがね、いっそのこと
取っ払ったらどうでしょう?
その方が開放的になるんじゃないかと』
ゴニョゴニョと歯切れ悪く佐藤は切り出した
視線は専務の後方を見ている。
目を合わせないのは、
半分は余計な口出しに対する叱責から
逃れる為で、もう半分はなんというか……
照れだ。
『なるほど……強度に問題は?』
勇斗は提案された壁とその先にできる
レストランを想像した。
うん、悪くないな。
『大丈夫ですよ、あの壁に支柱はないです』
『すぐに設計士と話をしてみよう』
『わかりました』
『佐藤さん、ありがとうございます』
『いえ、滅相もない!』
佐藤は慌てて首を振ると、再び工事現場へ
戻っていった。
勇斗は満足の笑みを浮かべた。
そうさ、現場にいるってこういう事なんだ。
要人さんもよく現場の意見を聞いていた。
ここにいる人間全員が、このホテルを
良くしよう、生き返らせようとしている。
大丈夫だ、必ず上手くいく。