桜が求めた愛の行方

唇を離すと、さくらは素早く
マドレーヌの皿を振り返った。

それを見て勇斗は爆笑した。

『さくら、頼むよ。
 どうせそれだけあるなら、汗を流して
 頑張っている憐れな男達全員に
 甘い一時を恵んでやってくれ』

さくらは、いつまでも楽しそうな彼の肩に
わざとらしく、しなだれかかった。

途端に勇斗の瞳に警戒心が浮かんだ。

『いいわ。
 その代わりに、私やっぱり女性として
 ……ううん、あなたの妻として
 正しいストレス発散をしたいの』

『なるほど……』

勇斗は胸ポケットの財布を押さえた。

滅多に物を欲しがらない彼女だから
こういう時に、大きなものを要求しそうだ。
最近、大きな買い物はしていないから
カードの限度額は問題ないはずだ。
というか、藤木姓になって作ったカードに
限度額なんてあったか?

『夫がハンサムな上にお金持ちなんて、
 私って世界一幸せな女だわ』

さくらがわざとらしく瞳をパチパチさせると
彼の眉間に深い皺がよる。

『今日はもう仕事は切り上げよう
 たまに妻の買い物に付き合うのも
 夫の立派な勤めだ』

彼の最もらしい言い方に、つい吹き出して
しまった。勇斗を相手にこんな演技は
続かないのだと、つくづく実感する。

『なんだよ、冗談か?』

『さあ、どうかしら?一緒に居たかった
 だけか確かめる為にも、仕事は早く
 切り上げた方がいいと思うわよ?』

『そういう事ならば喜んでそうしよう』

彼は勢いよく私の手を引くと、
思いきり唇を重ねてきた。
笑いながら抵抗していたさくらは
優しく甘いキスに次第に膝の力が抜けていく

『どうだ?欲しい物の一つや二つは
 頭の中から消えたんじゃないか?』

『私、欲しいものがあるなんて言った?』

勇斗は笑い声を上げて彼女を優しく
抱きしめた。


『さあ、田所がおやつの時間を待ってるぞ』

『そうね、そうしましょう』

さくらは買って貰おうと思っていた
マカロンの材料どころか、
ストレスさえもきれいさっぱり消えて
頭の中は勇斗の事だけになってしまった。


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