桜が求めた愛の行方
『これも副社長の仕業だと思うか?』
『もちろんです!』
田所の怒りもまた凄まじかった。
あの腐りきった男は、どこまで愚かなんだ!
自分が社長の椅子に座る事しか考えて
おらず、会社の危機を何もわかっていない!
このままでは、社長の椅子など存在しなく
なることが、なぜわからない!
『なあ田所、どんな手を使ったら、
土壇場になってこんな事ができる?』
勇斗も他にこんな事をするやつはいないと
思う反面、どうやったら山嵜さんを説き伏せ
られたのか全く思い浮かばない。
『それは……』
もちろん、田所にはわかっていた。
あの卑劣な男はさくら様と山嵜さんの関係
に気づいたに違いない。
『とにかくキャンセルにしても話を
しなければならない事はわかって
もらえたから、今から話をしてくる。
今夜の説得が正念場だな』
『私もご一緒します』
一緒に行ってさくら様が事実を知ってる事を
話せば、状況が変わるかもしれない。
『ダメだ!おまえの他にここを任せられる
人間がいない!』
『ですが!!』
田所は焦った。
これは、電話で話せるような事ではない。
要人社長、そしてさくら様の気持ちは
デリケート過ぎて、山嵜さんと面とむかわなければ無理だ。
だが、勇斗の言う事も最もだ。
いま二人がここから離れたら、こちらで
何かが起こるかもしれない。
くそっ!!
さくら様に頼らねばならないのか!
田所は一番避けたかった状況に追い込まれた
事に、心底ムカついた。
『向こうで真島に待機ように伝えろ』
『わかりました、すぐに支度をさせます』
『今夜は戻れないと思うから自宅に戻る、
明日はこっちに戻るつもりだが
話し合いによってはしばらく向こうに
なるかも知れない。後で俺からも連絡
するが、悪いがさくらに伝えてくれ』
『はい』
さくら様は今、マカロンの材料を調達しに
買い物に出掛けている。
『こっちのことは任せた。とりあえず、
このまま工事は続けさせろ』
『はい、承知しました』
『田所……すまないが、さくらの事も
気にかけてくれ。
無理矢理こっちに連れて来てから
少し不安定なんだ』
『わかりました、さくら様の事も工事も
ご心配なく、こちらを気にせず
どうか山嵜さんの説得を』
『ああ、頼んだぞ!』
言いながら勇斗はロビーの外に向かっていた。