桜が求めた愛の行方

『契約書は?』

『はい、こちらに』

真島は既に交わしていた契約書を差し出した。専務に言われて再度チェックしたが、
山嵜様の解除申し立てに、問題はなかった。

『これに細工はないのか?』

同じ結論に達した勇斗は、苦し紛れに
冗談を言った。
一瞬、何を言われたかわからなかった真島が
ニヤリと笑った顔を慌てて引き締めた。

『この契約がまさかこのような事態になる
 なんて、思っていなかったものですから
 わかっていれば……』

『真島、うちの契約書に関して
 変な噂がたったら困るぞ?』

『申し訳ありません!』

頭を下げると、専務に笑って肩を叩かれた。

『作り直したものに変な細工はしていない
 だろうな?』

ニヤリと言う専務に真島は内心驚いていた。
こんな状況なのにこの人は……。
何故かわからないけれど、この人について
行けば、大丈夫だと思った。

『専務、この契約には細工どころか
 利益すらありませんよ!』

『そうだな』

軽井沢の田所室長からの指示は
こちらの利益は最低限に作り直せだった。

『本当によろしいのですか?』

『良いとは思っていないが、今は他に
 思い付く事がないから仕方ない』

『そうですね……でもどうして急に?』

本当にどうして?だ。
山嵜さんが何故心変わりしたのか、それが
わからない今は、条件で誠意を見せるしか
こちらの手段はない。
とにかく、説得するしかない。
今更、他のレストランなど考えられない。



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