桜が求めた愛の行方
それにどうやって切り出せばいいの?
私は全てを知っています。
でも、私の父親は藤木要人ひとりですから。
ばかばか!
それでどうしたら
軽井沢の件を頼めると言うのよ!
落ち着くのよ、さくら。
自分に言い聞かせた。
三度目の深い深呼吸をした。
こんなパニック状態で運転を続けたら
世紀のご対面をする前に、大きな事故を
起こして、人生が終わってしまう。
まだ終わる訳にはいかない。
彼を助けなければ。
本来彼のものであるべきもの、
私が受け取るべきではないもの。
そうよ、勇斗の事を考えればいい。
途端に膝から抜け落ちるような甘いキスを
思い出して、ハンドルを握る手が緩んだ。
彼の唇は魔法の時間を紡ぎだす。
あの瞳が甘く揺れると、時間が止まり
私の全てが彼だけになる。
誰にも見せない顔と甘い声で名前を
呼ばれると、自分が世界一幸せな女の子に
なった気分になる。
いいわ、そうよ。
全ては彼の為、そうでなければ。
次のサービスエリア辺りで、あの人に連絡
をしなければいけないわね。
ちょうど彼との話し合いが終わっている
頃だといいのだけれど。
本当はその前に、取り越し苦労だったと
田所さんから連絡がくればもっといいのに。
そして私は軽井沢へ引き返す。
悪い癖が始まった……
日本に帰って来るときに
考えても仕方がないことを想像する癖は
いい加減止めようと、誓ったのに。
でも今はその一縷の望みにすがりたかった。