桜が求めた愛の行方
長い沈黙を破ったのは、さくらだった。
『雪成さん……副社長から何か言われた
からですよね?』
さくらは、震える手を組んで握りしめた。
『え?』
山嵜は水のボトルを落としそうになった。
『何を言われたんですか?』
さくらの心臓は早鐘のようにドキドキと
胸を打っている。
『いや、副社長さんは何も……』
うつむいたままの彼女が言おうとしている
事に、まさか!とそれは違う!が、
山嵜の頭の中をぐるぐる回っている。
さくらは深く長い息を吐き出した。
『私に関係していますよね?』
思いきって顔を上げた。
店に入ってから、一度も合わせなかった
瞳に、初めて実の父を写した。
ああ、神様……
驚きに大きく開き、慈愛に満ち潤む瞳に
さくらの胸は張り裂けそうになった。
私の瞳の大きさはこの人と同じだったのね
『さく、ら……さん?』
山嵜の顔に様々な感情が浮かんでは
消えていくのを見ながら、さくらは
自身も震えながら、必死に息を整えた。
『私は……わたし……知っています』
今度こそ山嵜はボトルを床に落とした。
ガチャンと砕ける音は、現実のものか
心の中の音なのか、わからなかった。
『知っているんです、全て』
山嵜は開きかけた口を閉じた。
ありえない現実に、自分は夢を見ているの
かと顔をこすった。
夢ではなかった。
真っ直ぐ自分を見る大きな瞳を見て
山嵜は生涯知ることはないと思っていた
感情に胸が熱くなる。
『さくら……』
絞りだされた切ない声に、さくらの瞳から
ついに涙が溢れた。
『そんな風に呼ぶのはやめてください』
山嵜は挙げかけた手を、下ろした。
頬を伝う涙を拭ってやる資格は
自分にはないんだ。