桜が求めた愛の行方

まあまあ、と勇斗は睨む私の眉間を撫でる。

『親父たちに婚約破棄の話をしたら、

《困っている時に助けを求めておきながら、
 利用させてもらいましたとばかりに
 そんなことが出来ると思うのか?!
 恥を知れ、恥を!!》

ってさ、すげえ剣幕で』

『おじさまならそう言う事は予想できるわ』

『そうか?じゃあ母さんが
 俺の相手はおまえじゃなければ嫌だと
 泣き出して、その日から一言も口を聞いて
 くれなくなったとか、
 怒った親父は俺を資料室に飛ばして
 電話番をさせているとかも、おまえに
 予想できたか?』

『うそっ』

『俺はこれでも仕事が好きなんだ、
 社長の息子だからと甘やかされずあちこち
 研修に行かされて、ようやく今のポジション に就いたんだ。
 それが今は窓際だぞ?!』

『それはおじさまも思いきった事を…』

『まだあるぞ?』

『ええっ?!』

『昨日帰ってみたら、俺のマンションは
 売りに出されてた、それも家具つきで!』

『まさか!』

『極めつけは車庫にあった車だ。
 俺の愛しの彼女は白のバンに変わっていた』

『それって……』

『そう、会社の営業車だ。
 そして、真斗だよ!
 昨日ここに着替えを持ってきてくれた
 優しき我が弟は

《兄さんはこのまま行くと、
 公園か河辺のブルーシートで生活する日も
 そう遠くないよね》

 なんて言いやがった!』

『いっ意外と厳しい状況ね……』

さくらは不思議だった。
彼は彼女の事を話さなかったのかしら?
いくら事情が事情だとしても、
おじさまは息子が愛している人との結婚を
反対してまで、押し通したりしないはずよ。

それならおばさまだって……
息子が愛した女性を毛嫌いするような人で
はない。

さくらは思い当たる事がある。
弟のまーくんが以前、兄さんがひどく荒れていると言っていた。
《あれは振られたんだよ》って言ってたけど、冗談だと思っていた。

もしかしたら、
本当に別れてしまったのかもしれない。

じゃあどうしてとりあえずなの?

ああ、そうか。
きっとやり直すつもりなんだわ。
だからわたしとの結婚はとりあえずなのね。

勇斗の手はいつの間にか頭に移動して、
私の気持ちをなだめるように髪を撫でている。
その愛情のこもった態度に顔をしかめて、
彼の手をはらった。

『それで?とりあえずどうするの?』

『俺は結婚して、藤木の人間になるよ』

『えっ!?誰かに何か言われた?』

『何も?どうして?』

『だってその……あっあなたは長男だし』

『そこなんだけどさ、多分この話は
 元々そう言う事から来ているんじゃないか
 と思ったんだ』

勇斗は一旦話を止めて、コーヒーを飲んだ。
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