桜が求めた愛の行方

11.揺れる想い


勇斗は温もりを求めて腕を伸ばし
冷たいシーツの感触しか見つからず
目が覚めてしまった。

『さくら?……そっか軽井沢か』

腕に馴染んだ柔らかい感触が、今朝は格別に恋しかった。

『だいぶ涼しくなってきたな』

コーヒーを飲もうと起きあがった。

昨夜は真島と二人、日付が変わるまで
新しいプランを練ったが、結局いい案は
出せないまま帰宅するはめになった。

『コーヒー豆はどこだよ?』

前に見かけたエスプレッソマシンさえ
ないじゃないか。
っていうか……
キッチンすべて訳がわからない。

『ここか?うわっ』

そこはずらりと並んだ香辛料の棚だった。

『やめた』

勇斗は携帯を取りに寝室に戻った。
サイドボードの時計を見る。
時刻はまだ6時過ぎ。

『起こしたら可哀想だな』

メールを打った。
彼女も俺の温もりを求めて起きていたら、
連絡してくれればいい。

着信メールを確認すると、数件ある。
その中の1件のタイトルを見て、
眉間に皺が寄る。

Sub 軽井沢の契約の件
From 山嵜博信

今日の話し合いはキャンセルか……
そう決めつけて、勇斗はため息をつきながらメールを開いた。


昨日は突然すまなかった。
店に帰り、もう一度よく考えてみた。
やはりアンジェドスリズィエは
ここだけにしたい。だが、支店という
考え方を捨てて、軽井沢は新しい店として
挑戦させてもらえないだろうか?
それでよければ、今日もう一度話し合いに
応じたいと思う。
メールでかまわない、返事を待ちます。

山嵜


『よっしゃー!!』

部屋中に響く大きな声で力いっぱい叫んだ。
どんな魔法が起きたか知らないが
風向きはまだ俺の味方だ。

勇斗は急いで山嵜に返信し、続いてそれを
田所と真島にして、書斎に入って
新しい店での構想と契約書の作成を
練る為の仕事を始めた。



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