桜が求めた愛の行方
『車を飛ばしてきた?』
『ううん、法廷速度だったわ』
『俺に朝ごはん作りたかった?』
『作るなんて言ってないし』
彼の声が甘くて顔を見なくても、くすくす笑っているのがわかる。
『確かにさくらのコーヒーは旨いよな』
『もう知らない!』
離れようとすると、今度は彼にぎゅっと
抱きしめられた。
『可愛い奥さんの独り言を聞くのが、
こんなに楽しいなんて知らなかったよ
まだまだ知らない面があるもんだな』
『もうないわよ』
『さくら、俺に会いたかった?』
そこは否定できなくて、しがみついたまま
うなずいた。
『俺も会いたかったよ』
『ほんと?』
顔をあげると唇が落ちてきた。
だけど、軽く合わさってすぐに離れて
しまった。
『やっ……もっと』
もっと彼を感じたくて自分から再び重ねる。
空いた隙間に舌を入れ、いつも彼がするように、追いかけて絡める。
唇を離したら、彼が驚いている。
『珍しく積極的だな?』
『いや?』
『んな訳ないけど……』
安心する腕の中に落ち着いたら、昨日の
出来事の不安が急に押し寄せてきてしまった
親子の名乗りをあげるつもりはなかった。
ただ事実をつげて、軽井沢の件を引き留める
それだけでよかったのに。
捨てきれなかった想いをぶつけ、また新たな
想いを抱えてしまった。
苦しくなって、思わず肩を押して彼の上に
覆い被さった。
何もかも忘れたい……
『ゆうと……』
声が震えてしまう。
『どした?押しまくってきたかと思えば
そんな顔して、何か変だろ?』
起きあがって、なだめるようなキスを
されるから、涙をこらえた。
答えのみえない気持ちにただ首を振る。
『さーくら』
優しく抱き締められた。
『ちょっと、待ってろ』
『やっ、行かないで!』
ベッドから降りる彼の腕を掴んでしまった。
今は一人になりたくない。
あれだけ泣いたのに、また涙が溢れてきた。
『大丈夫、すぐに戻るから』
安心させるように、一度強く唇を重ねてから
彼は部屋を出ていった。
私は何をやっているの?
頭を冷やさなければ。
このままだと、彼に何もかも話してしまいかねないじゃない!
ふと時計を見ると、時刻は7時半過ぎ。
普段なら田所さんが迎えに来るまで
あと少し……ひょっとして今日も誰かくるの
かしら?!
慌てて部屋を出た。