桜が求めた愛の行方

『さくら』

ハッと口を押さえ、わなわなとした
彼女の大きな瞳から大粒の涙が溢れ出した。

『違うの……なんで…も…ない……』

首を振って明らかに動揺した彼女は
身を守るように腕を交差させて、
震え出した。

『わたし……ああ…どうしよう…』

『さくら！』

慌てて立ち上がり駆け寄った。

『いやっ！！来ないで』

立ち上がって、逃げるように後ずさる
彼女をかまわず引き寄せ掻き抱いた。

核心なんてもんじゃない！
生まれてこなければよかった、だと？！
どうしてそこまで苦しんでいる！

『やめてっ、離して！』

激しく抵抗されるが、絶対に離さないよう
腕の中にきつく閉じ込めた

さくらを苦しめる原因を追い払って
やりたかったが、予想していたのは
そんな爆弾ではなかった。

『やっ、いやっ……はなして…』

『しぃー、ごめん……悪かった…』

小さな子供に言い聞かせるように、
優しく何度も囁いた。

『やめて……ねがい…やめて……』

『わかった、この話は終わり、な？』

胸を押していた手が抵抗をやめて、
だらりと落ちた。
声を殺して泣く彼女にたまらなくなる。
ずっとそんな風に思って生きてきたと
いうのか？

『ごめんなさい』

くそっ！
彼女はいつもこうだ。
何も悪い事をしていないのに自分を
責めている。

責められるべきは別の人間じゃないか！

すみれおば様は一体さくらに何をして
くれたんだ？！
例え彼女を生んでくれた人だとしても
許さない。

『さくら』

優しく呼んで、顔を上げてくれるのを
辛抱強く待った。

『愛してるよ』

大きな瞳が驚きでさらに大きく開かれる。
言葉を発する前に、またポロポロと大粒の涙がこぼれ出した。

『大丈夫、俺はずっとおまえの傍にいる』

わっと声をあげて泣き崩れる彼女を
生涯離すものか、と言う気持ちを込めて
抱きしめた。