桜が求めた愛の行方

『しかし、翌日には考えを変えてもらえ
 ましたので、俺はてっきりさくらが
 お義母さんに説得を頼んだとばかり……』

『だから昨日……』

『ええ、お義母さんの反応で咄嗟に
 それは違っていたとわかりました。
 そうですよね?』

『それは……』

『そうなると、さくらは直接山嵜さんに
 話したんだと思うしかありません』

『まさか!』

勇斗はすみれの疑問を無視して、
畳み掛けるように質問する。

『仮にそうだとして、彼女はどうやって
 山嵜さんを説得できたのでしょうか?』

『そんなはずは……』

『そもそも、山嵜さんが突然キャンセル
 してきたのは、副社長から何らかの
 恫喝があったものと思うのですが、
 それについても、何も聞いてませんか?』

『嘘よ!!……まさか…そんな事……』

質問する度にすみれの顔がみるみる青ざめていくのを見て、勇斗も不安になっていた。

もしかしたら、俺はパンドラの箱を
こじ開けようとしているのかもしれない。

『お義母さん?大丈夫ですか?』

違うわよ、違う!!
誰かお願い……私の頭に浮かんでいる事は
間違いだと言って……

すみれは震える手でカップを掴むと
熱い紅茶を一気に飲み干した。
焼けるような熱さが喉を流れていくが、
不安と恐怖が入り交じった身体が
温まる事はなかった。

ありえない……そんな筈はないわ
あの娘が知っている筈がない。

そうよ、博信《ひろのぶ》さんからだって
何も聞いていないわ。
そう思ってから、すみれは一昨日の事を
思い出した。

『嗚呼、そんな……』

『お義母さん!』

動揺して立ち上がった所で、すみれは
その場に崩れた。

博信さんは一昨日の夜、帰宅した時から
様子がおかしかった。
思い詰めた顔をしたかと思えば、
急に思いだし笑いをしたりして……
問い詰めようとしても、上手くはぐらかされてしまって…それがまさか……

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