桜が求めた愛の行方

長い沈黙が続いた……

強い風が吹いてカサカサと木々の葉が揺れ、
遠くで鳥の飛び立つ羽音が聞こえる。

髪を直しながら、俺と距離を取るように
歩き出したすみれに、
もしかしたらこのまま何も言わずにテラス
に戻るんじゃないかと思った。

『あのっ!』

『どうしても知りたいのね?』

立ち止まって、振り返ったすみれの顔は
見たこともないくらい真剣だった。

勇斗はそれを真っ直ぐ見返した。

『はい』

『わかったわ、ただし約束して欲しいの
 どんな事を聞いても、あの娘への態度を
 変えないと』

『もちろんです。例え彼女が犯罪者だと
 聞いても、俺はさくらを愛しています!
 もちろんそれはありえませんけどね』

すみれは小さく微笑んでうなずいた。

『勇斗くん』

大きく息を吸い込んだすみれにつられて、
勇斗も息をつめる。

『はい』

『あの娘の本当の父親は山嵜よ』

『えっ!!』

『藤木とは血が繋がっていないの』

『そんな……そんな事って!!』

あまりの衝撃に、勇斗は地面が揺れている
ような感覚になった。
何を想像していたにしろ、
まさかそこまでの大きな秘密の告白では
なかった。

『さっきあなたから話を聞くまで、
 あの娘が知っているとは夢にも思わな
 かったけれど、そうだと思えば、山嵜の
 行動も含めて全てが納得できるわ』

『まさか、山嵜さんも?』

『ええ、山嵜には藤木が亡くなった時に
 打ち明けていたの』

『どうしてそんな事に?なぜ初めから
 山嵜さんと結婚しなかったのですか?』

『それはとても複雑な話なのよ、
 きっとあの娘も知らないはずのそれを
 今ここであなたに話す訳にはいかないわ』

『………もしかして副社長は!』

『そうね、その通りだと思うわ。
 だから、さくらは山嵜に会ったんだわ』

すみれはついに崖から飛び降りた。
25年間、ひたすらこの子達に知られないよう
にしてきた秘密の箱を自らの手で開けて
しまった。

溢れだしたのは罪悪感と後悔……
そしてわずかな安堵だ。

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