桜が求めた愛の行方
でも……
私が開けられるのはこの箱だけ。
この子が全く気づいていないのなら、
もうひとつはまだ開けるべきではない。
そうでしょう?
すみれはすがるようにまた桜の樹に触れた。
『あの娘になんて言うつもり?』
『何も……何も言いません』
俺が何を言えると言うのだ!
『そう……ありがとう』
『お礼なんて言わないで下さい!
さくらは苦しんでいます!あいつは
この間、自分が生まれてこなければ
よかったと苦しそうに言ってました』
『何を馬鹿なことを!!』
『僕でなく、さくらに言ってください』
『あの娘はそこまで……』
すみれはハッとした。
もしかしたら、あの娘は何もかも全てを
知っているのではないの?
そんな……嗚呼、そんなことって……
どうしたら良いの?
ねえ、要人さん!!教えて!!
私が全ての箱を開けなければいけないの?
視線を落とした先に見えたものに、
すみれは乾いた笑いが込み上げてきた。
そうよ、これよ。
これも一緒に移していたのね。
私がこの庭には二度と来ないと決めたのは
これを見てしまったから。
あの娘が生まれた年に、要人さんが
桜並木のひとつに加えた樹。
その一つの見えない位置に立て掛けられて
いた、小さな立札に書かれた文字。
『お義母さん?…すみれおばさま?』
急に笑い出したすみれが見つめる
先を見た勇斗も、それを見つけた。
ー咲良ー
立札を見た勇斗の心に何かが引っ掛かった。
かつて同じようなものを見た感覚が
心に甦ってくる。
それが何かを記憶から必死に思い出そうと
していると、おばさまの声に遮られた。
『あの人……要人さんは本当はね、
さくらってそう名付けたかったのよ』
おばさまはただ悲しそうに首を振った。
『あっ……』
勇斗は〔何か〕の存在を思い出した。