桜が求めた愛の行方
さくらはトキオの庭を歩いていた。
ここに来るのもこれで最後かも知れない。
楠の並木は枯れ葉で埋め尽くされ、
昨夜降った雨が、所々にかわいいどんぐり
の実を転がしている。
雨上がりの秋の香りを胸に吸い込んで
秋晴れの高い空を見上げた。
パパ、もうすぐ軽井沢が復活するのよ。
そこから見えてるかしら?
彼はパパと同じ想いであそこをあんなに
素敵にしてしまったわ。
ねえ?息子は自分にそっくりだって
そこで満足している?
さくらは溢れる想いを呑み込んだ。
そしてもうすぐ、全てを終わらせなければ
いけないの。
勘のいい彼は気づいているわ。
あの日、私がこぼしてしまった言葉を頼りに
もうすぐ自分で答えを見つけるはずよ。
このまま永遠に彼の妻でいられると
夢見てしまった
簡単には手放せないほどの幸せを
見つけてしまったわ……
だから……
憎まれるのは耐えられない
ううん……
彼はそんな事はしないとわかっている
だからこそ、耐えられないのよ。
彼はずっと見てきたわ
私が藤木要人に愛されるのを。
本当だったら、自分に向けられていたもの
自分が受け取るべきだったものの大きさは
私が一番わかっている。
彼が全てを知った時に、私達の関係は終わる
そう、始めからわかっていたことよ。
けれど……
パリを発つときには想像していなかった
これほど別れが辛いものになるなんて。
思えば、《とりあえず結婚しよう》と
言われた言葉にすがっていればよかった。
馬鹿なさくら。
どうして、とりあえずを本物にして
しまったのよ?
今さら何を言っても遅いわね。
本来彼が受けとるべきもの……
それを返したら、私は藤木とは関係なく
生きていくと、決めたのは他でもない
自分なのだから。
さくらは震える手で、携帯を出した。