桜が求めた愛の行方
繋がるまでのコールが、まるで終わりへの
カウントダウンのように聞こえる。
『アロー、モン ミエル シェリ』
《愛しのハニー》
彼の応答する言葉は、今どこにいるかが
わかるようになっている。
『ニール……』
懐かしいパリの街が瞼に浮かんだ。
いつかあそこへ戻ればいい……
また独りで始めればいいの……
『オーララ!
そんな日は来ないと思っていたのに!』
『私もそう…ねがって……』
言葉が続けられなかった
涙は止めどなく溢れて嗚咽を堪えるだけで
精一杯になる。
『ベイビー、抱きしめてあげられない所で
泣いたらダメだよ』
落ち着くまで電話の向こうで静かに
ニールは待ってくれた。
『大丈夫かい?』
『ええ、ごめんなさい。
どれくらいでこられる?』
『今夜の便でって言ってあげたいけど
そうだな…明後日の夜便で向かうよ』
『ちょうどいいわ。お仕事は大丈夫?』
『これはお仕事でもあるだろ』
『ありがとう……ちゃんと請求してね』
『ウィ』
『気をつけて来てね』
『ウィ。あ、迎えはいらないよ』
『え?』
『どうせ真斗をよこして、自分は入れ違いに なるつもりだろ?』
『ニール……』
『さくら、僕が行くまで時間がある。
いま一度、よく考えてみるんだ』
『……わかったわ』
そう言って電話を切ったけれど、
気持ちはもう変わらない
残された時間が短いなら、もう一分だって
無駄にはできない。
今朝、掛かってきた呼び出しは私にとって
好都合になるはず。
最後にもう一度、抱き締められたかった。
さくらは秋の冷たい風に吹かれながら
勇斗の温もりを思い出していた。