桜が求めた愛の行方

15.それぞれの企み


さくらは沢木が指定した別邸に来ていた。
ここは都心まで二時間程の海の見える
環境のいい場所だ。

どう見ても最近購入したこの部屋は
ここへ来てすぐ、私の鞄を奪ったあの女性
の為のもののようだ。

『やあ、さくら。元気だったか?』

『雪成さん!鞄を返して!!』

『久しく見ない間に、ずいぶんと
 大人になったようだ』

舐めるように頭から爪先まで見られて
さくらは嫌悪感から吐き気がした。

『今さら私になんのご用ですか?』

『いやなに、君の夫は力をつけすぎたよう
 だから、この辺でわからせる必要が
 あると思ってね』

『彼をどうするつもり?』

『なに、簡単な事さ。
 完成パーティーの前におまえに
 少しばかりやってもらう事があるだけだ』

軽井沢のパーティーまであと三日。
絶対に何かが起きてはならないわ!
さくらは震えそうになる声をなんとか抑えた

『軽井沢を彼が手掛けた事は周知の事実
 でしょ?今更あなたに何ができるの?』

さくらは感情的にならないよう、
自分の心に言い聞かせた。

『そうかも知れない。だが、もっと単純
 であるかもしれないぞ?』

『単純?』

『そう、おまえがそこにサインして、
 やつは藤木から去る、単純明快だろ?』

先程の女性が紙を一枚さくらの前に置いた。

見るとそれは離婚届だった。

ああ……これなら大丈夫。
この覚悟は今さら必要ないもの。

それでもさくらは、冷静になりなさい!
ともう一度自分に言い聞かせた。

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