桜が求めた愛の行方
16.崩壊
『勇斗!これはいったい何事だ!
軽井沢の完成パーティーは明日だと
いうこんな時になぜ役員会を
行わねばならんのだ?』
会議室へ入ってくるなり、勇斗は会長に
怒鳴られた。
『申し訳ありません!』
勇斗は田所と共に頭を下げた。
朝一番で緊急召集がかけられた、
藤木本社役員会議室では、訳知り顔の者と
戸惑いを隠せないもの、そして完全に
何のことかわからない者、各々が
思うことを口にして、騒然としていた。
『雪成の仕業じゃな?』
それに答えたのは田所だった。
『はい』
『あいつは一体何をしでかそうと
しておるのじゃ!』
『それが……』
田所が早朝にようやく見つけた事の次第を
答えようとする間もなく、会議の始まりが
告げられてしまった。
『皆さん、お集まりのようですね』
『田中常務』
沢木はこれから起こることに
笑みを隠しきれずに、半笑いの顔で
腹心の常務にうなずいた。
『はい、ではこれより緊急取締役会を
開きたいと思います』
『わしは何も聞いておらんぞ!
軽井沢が完成しようとしている、
この大事な時期に何をするつもりだ?』
『だからこそ、なのですよ会長』
沢木はそう言いながら、
副社長のプレートを手前に倒した。
これは、もはや俺のものではない。
『会長、社運のかかった大事なときに
スキャンダルは避けなければなりません』
田中常務が普段は怖れている会長に
断固とした態度で告げた。
『スキャンダル?』
『それを配ってくれたまえ……』
言われた秘書の女性が会長から順番に
経済紙系列の週刊誌のコピーを配った。