桜が求めた愛の行方

『遅れて申し訳けありません、わたくし
 M &P 法律事務所で弁護士をして
 おります、溝口です』

ニールは自分を見る勇斗に、何も言うなと
力強く瞳で合図した。

『弁護士?』

差し出された名刺を受け取った会長が
改めてニールの名刺を読み上げた。
途端に何人かの役員が驚きに目を見張った。

『M&Pってあの大手の?!』

『いや、待てよ!!
 あそこの溝口って…まさか!
 あの有名外資のおもちゃ産業の
 顧問弁護を一手に引き受けたって
 言う……』

ニールはその役員に向かってにっこり
微笑んだ。

『私の事をご存知とは光栄です』

勇斗は驚いてニールを見た。
あの有名メーカーの訴訟を一手に引き受けて
責任者に任されているとは。
確かにさくらが、仕事はできると言って
いたが、そこまでの器だったとは……

『君がなぜここに?』

会長はニールに話を促した。

『実は私、藤木さくら様の個人的な
 顧問弁護をお引き受けしております』

『さくらの?』

『はい。それでこの役員会に、重要な
 書類をお持ちいたしました』

勇斗は瞳を見張った。
まさか、昨日の書類をここで?!
ニールは勇斗にうなずいた。

『重要な書類?』

『こちらです。よろしければ皆様の前で
 読み上げてもよろしいですか?』

『ああ』

『私、藤木さくらは自身が受け継いだ株、
 及び今後受け取る可能性のある、全ての
 株を夫である藤木勇斗に譲渡します…』

『なんだって?!』

叫ぶ沢木を見て、ニールはわざとらしく
驚いた顔をした。

『まだ続きがありますので……』

『続けたまえ』

会長が沢木を睨み付け、続きを促した。

『はい。では……
 万が一離婚が成立することがあろうと、
 この書面は有効であり、藤木さくらに
 関する株の全ては、藤木勇斗のものと
 します』

『馬鹿を言うな!!
 そんなでっち上げを誰が信じるものか!』

沢木はニールに詰め寄った。

『でっち上げではありません。
 これは私の立ち会いのもと、3ヶ月前に
 正式に作成されたものです。
 お疑いでしたら、印をお調べください』

『間違いない』

ニールに渡された会長が大きくうなずいた。
数人の役員たちが、複雑な視線を沢木に
送った。

『でっち上げだ!』

『困りましたね。そう言われるならば
 そちらの書面の方が疑わしいと私は
 思いますが?その様な書類については
 何の相談も受けておりませんから』

『雪成、それは本当にさくらが書いた
 ものか?』

会長の静かな声は返って周りに恐怖を与える

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