桜が求めた愛の行方

『もちろんです!』

沢木の内心は烈火の如く怒りに燃えていた。

やけに素直に応じた小娘に
こんな計画があったと気づけないとは!

『さくらをここへ呼びなさい』

会長の言葉に沢木は焦った。

あの小娘は昨夜、確認した時には間違いなく
マンションにいた。
だが、今朝になって逃げられたと
連絡があったのだ。

『おまえの所にいるのだろう?』

言葉を濁す沢木に、全員の目が集中した。

『それは……』

あのバカ娘はどこへ行った?!

沢木は必死に頭を働かせた

まだ風は自分の背から吹いているはずだ。
ここまできて全てを棒に振るわけには
いかない!!

棒に振るだと!?

頭に浮かんだ最悪のシナリオに
端正な顔が恐怖に歪んだ

俺こそが藤木の後継者に相応しい
そんなことは火を見るより明らかだ!

あの小娘ごときにしてやられるはずがない

『パリ……そう!パリです』

『なんだって?!』

『さくらはパリに戻りたいと言ったので
 今朝、その手配をしました』

一時しのぎの上手い嘘が見つかって
ホッとした沢木を見て、
ニールが狡猾な笑みを浮かべた。

『いえ、さくら様は先ほどご自宅に
 いらっしゃいましたよ?
 私はお会いしてきましたので』

『貴様!でたらめばかり言うな』

『雪成!!』

会長の一喝は、自分に向けられたものでは
ないとわかっていても、室内の誰もを
震え上がらせた。

沢木は放心したようにその場に座り込んだ

そのピンと張った空気を破ったのは
田所だった。

『この方の言っている事は間違って
 おりません。この会議の前にSPに
 確認した所、さくら様は間違いなく
 ご自宅にいらっしゃいましたよ』

それは沢木への最後通告となった。

会長は無言で立ち上がると、
田所に向かって、顎をひとつ動かした。

田所はそれで全てを悟った様に頭を下げた。

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