桜が求めた愛の行方
『藤木が亡くなるまでそのつもりは
なかった!本当だ!!だが……
おまえは家業より藤木の仕事に
興味を持ち、才能を発揮した……
ザ・トキオの改装の事を私が知らないと
でも思っているのか?』
『え…』
想定外の父の告白に勇斗は驚き
言葉を失った。
『昔の悪事を自慢したり、将来を語り
合ったりする、楽しみにしていた長男との
時間を、おまえは藤木としてしまった』
あの時、酔っぱらって俺の前に現れた
藤木の涙は忘れられない。
それでも、勇斗は私の息子なのだ。
『父さん……』
『彼が亡くなってから……確かに融資は
必要だった、だがその為だけに息子を
手放したりはしない。あの家が……
藤木がおまえを望んでいると感じたんだ』
『ならば、さくらは?!
さくらの事は考えなかったのですか?
俺が藤木になったせいで、彼女を
傷つけてしまった……』
『なぜだ?彼女は誰かと結婚せざるを
えなかった。
おまえ達は上手くいっているのでは
なかったのか?』
『そうじゃありません!!
さくらは最初から全部知っていた……
そして何もかもを棄てて消えてしまった』
『なんだって?!』
『さくらがいなければ……さくらがいない
藤木なんてなんの意味もない……
俺は彼女との未来の為に必死に頑張って
きたんです、藤木を自分のものに
したかった訳じゃない!
なのにさくらは、俺に託すことが
本来の正しい形だと思って……』
『馬鹿な……それでは藤木が浮かばれない』
『彼女の相手は俺じゃない方が良かったん
です……要人さんが亡くなって、
結局お父さん達は……俺を……本来の
血の繋がりを重視したんだ……』
『そんな事はない』
強気だった息子の悲痛な顔を見て、
誠は勢いを削がれた。
『ならば隠さず、せめてさくらと結婚する
前に教えて欲しかった……そうすれば
さくら一人を苦しめずにすんだんだ』
『さくらちゃんはどこへ?』
『父さん…俺はどうしたらいい?
さくらを失うなんて……彼女のいない
人生など俺には耐えられない……』
愛するものを失うかもしれない怖さは
さっき自分も痛いほど味わった。
息子にいま必要なのは秘密の告白や慰め
ではない。
『しっかりするんだ!
彼女が行きそうな所は探したのか?』
『家にはいませんでした……』
『真斗は?!真斗には聞いたのか?』
勇斗は、ハッと顔を上げた。
『いえ』
慌てて携帯を出した。
そうだ!何故そこに気づかなかったんだ!
こんな時にさくらの事をわかるのは
もう真斗しかいない。
『かける必要はないよ』
二人の前に、ふらりと真斗が現れた。