桜が求めた愛の行方
『もしもし!!母さん?!』
ー勇斗……ごめんなさい…許して…
もっと早く話すべきだったわ……
『それは今はもういいですから!
それよりも、さくらは?』
ーごめんなさい……
『ですから、もう過去の話はいいです!
さくらはそこにいるのですか?!』
ーダメだったの……
『えっ?』
ー話は聞いてもらえたんだけれど、
どうしてもあなたの所に
戻ることはできないって……
『代わって!さくらと電話を代わって!』
ーそれが……
『どうしたんです!』
ーついさっき待たせていたタクシーに乗って
行ってしまったの……
『どこへ!?』
ーごめんなさい、わからないの……
『くそっ!』
勇斗は携帯を父に渡して真斗を見た。
『どこだ?』
『お母さんじゃ、ダメだった?』
『ああ、どこへ行けばいい?』
『空港、今夜のパリ行きのどれかだと思う』
『わかった』
『兄さん!』
真斗は一瞬躊躇ったあと、大きく息を吸って
しっかり兄の瞳を見つめた。
『僕は兄さんの弟に生まれて良かったよ』
『ああ、俺もおまえの兄になれて良かった』
今度は勇斗から真斗の肩をガシッと組んだ
『ならば、僕の大好きな姉さんを必ず
取り戻してきて!』
『ああ』
勇斗は幼い頃の真斗にしていたように
頭をぐしゃっと撫でた。
『勇斗、落ち着いたら
母さんがゆっくり話をしたいそうだ』
苦渋の顔をして、電話を切った父がそう言い
ながら、携帯を返してきた。
『わかりました』
勇斗は上着のポケットの中にある指輪を
確かめて、幸運を祈るように
ぎゅっと箱を握りしめた。
どうか間に合ってくれ……