桜が求めた愛の行方

覚悟を決めたかのように顔を上げた
さくらの瞳から溢れる涙を見て、勇斗は
強く拳を握りしめた。

まだだ……
いま抱き締めても、さくらは逃げてしまう

『藤木はおまえのものだ』

『違う!!藤木はあなたのものよ!』

どうしてもそこは譲らないという態度の
彼女に、勇斗はその話を切り捨てた。

『ならば、おまえが出ていくと言うなら、
 俺も一緒に行く』

『ダメよ!!何を言ってるの?
 皆は?田所さんや真島君達……あなたを
 必要としている人達をどうするの?!
 大勢の人達を見捨てるの?!』

『ああ。彼等が誰を必要だろうと、
 俺が必要なのはおまえだけだから』

『やめて!もう……お願い……
 結局私達は《とりあえず》だったのよ』

『それはとっくに訂正したはずだ!』

勇斗の剣幕にさくらは一瞬押し黙った。

『私は……私には他に……』


『さくら!心にも無いことを言って
 お互いを無駄に傷つけるのはやめるんだ』

他に好きな人がいるなどと言う言葉を
使わせるもんか!
そんなの認めないし、ここまできて
駆け引きなんかさせてたまるか!

『ゆうと……』

『俺の父親が要人さんだとわかったら
 俺の事が嫌いになるのか?』

さくらは自分で気づいているのだろうか?
否定する言葉を言うたびに瞳から
大粒の涙が溢れていることに。

『………きら』
『二度と離さないと言っただろ!!』

この期に及んでもまだ強がろうとする
彼女に、勇斗は痺れを切らした。

『くそっ!……これを言うのはおまえの
 背中を押す為の最後の手段なんだからな!
 卑怯な男だと思わないでくれよ!』

『なにを言われても……』

勇斗は彼女の腕を掴んで自分の方へ
引寄せると、もう片方の手を彼女のお腹に
当てた。

『ここにいるかも知れないだろ?』

『えっ……』

『もしいたら、おまえはこいつに
 俺達と同じ想いをさせるのか?』

何を言われたのか理解したさくらは
驚いて勇斗を見た。

『うそっ……』

『可能性はゼロじゃないはずだ』

さくらの瞳が一瞬喜びに輝いたのを見て、
勇斗は堪えきれず、彼女を腕に抱き締めた。

最初、手をグーにして胸を押して必死に
抵抗していた彼女は、やがて指をほどいて
シャツを握りしめ、代わりに胸には
額が押し付けられた。

『俺たちの父親が誰であろうと、
 藤木が誰のものであろうと、
 そんな事は二人にはどうでもいいんだ
 俺にはおまえが必要で、さくら、
 おまえには俺が必要なんだよ』

ついに、さくらは勇斗の背中に腕を回して
しがみつき、声を上げて泣き出した。
勇斗はそうされて、ようやく強ばっていた
全身の力を抜いた。

もう大丈夫だと、自分で納得できるまで
勇斗は彼女を強く抱き締めて離さなかった。

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