桜が求めた愛の行方
***
『立木さん、俺は桜の花を見ると、
何故だか生き急いでいるように感じて
切なくなる反面、その潔さみたいな
ものに、たまらなく惹かれてしまう
んだよね』
『それでお嬢様のお名前に?』
『うーん…それもあるし、
桜はこの国で一番美しい花だと思う
娘も俺にとっては同じだから』
言いながら要人が差した小さな立て札を
見て立木は首をかしげた。
『しかし、お嬢様はそのような漢字でも
ないですね』
『これは……いつかさくらに話してやるさ』
『はい』
立木が深追いすることなく、にこやかに
応じると、要人は笑って首をふった。
『まったくあなたには敵わない
俺が話したいのをわかってるんでしょ?』
『めっそうもない』
『いいさ……これは……
いつかさくらが人生に迷った時に
この樹を見て、咲いて良いのだと
咲くために生まれてきて、何度でも
花を咲かせることができるのだと
あの娘の名に込めた想いを
伝えたい為に、立てて置くんだ』
『素敵ですね』
『さくらもそう思ってくれるといいが…』
***
『社長は本当にお嬢様を愛して
おられました……さくらお嬢様!?』
静かに涙を流すさくらに、立木はおろおろと
慌ててしまった。
これが最後の仕事だと思っていたが、
お伝えするのは、間違っていただろうか……
『ごめんなさい、平気だから……』
『ですが……』
『あとは俺が引き受けましょう』
背後から現れた勇斗に、立木はホッとした。
『すみません社長』
勇斗は近くの樹の傍で、邪魔にならぬように話を聞いていた。
『いいえ、こちらこそ。
話してくれてありがとうございます。
な、さくら?』
『ええ、本当に』
笑顔でうなずくさくらに、立木も微笑み
を返した。
『それでは私はこれで』
『長い間お疲れさまでした』
『立木さん、ありがとう』
立木は立ち止まって深々と一礼して
フロントへ戻っていった。