桜が求めた愛の行方
『勇斗か?!』

要人おじさんが、若くて精悍な顔立ちの
秘書を下がらせて俺の方に歩いてきた。

『まずい……』

眉間に皺を寄せて目を細めてる。

『説教ならまたにして』

回れ右して逃げようするが、
あっさり捕まえられてしまった。

『逃げるなよ!』

怒鳴られるのを覚悟して、
思いっきり面倒臭さそうな顔をした俺に
おじさんは豪快に笑った。

『おまえ、いい男になったなぁ』
肩がバシッと叩かれる。

『痛いって』

『その面倒臭い感じ、若いっていいよな』

『そうさ、年寄りにはわからないよ』
本当に面倒臭かったから、正直に答えた。

『なんだと!?
 おまえのそんなのは大したことないな、
 俺のがもっと凄かったんだぞ!!』

いいのかよ、そんな事言って。
得意気なおじさんの顔につい笑いそうになる。

『ふん、時代が違うね』

『ああ?!おまえーちょっと来い!』

嫌がる俺を無理矢理引っ張って、
要人おじさんは上のスイートに連行した。

『いいか、おまえのそんなのはまだまだ!
 俺なんかな……』

そこから悪事の自慢大会が始まった。

勝った、と言いたい所だが
中々どうしておじさんの悪事もやばい。
男同士って感じが、心を浮き浮きさせて
いつの間にかおじさんの話に夢中になっていた。

『勇斗……
 先ばかり見てつまらない男になるより
 今のおまえはましだと思うが、
 後悔するような事だけはするなよ』

『んなの、言われなくてもわかってるよ』

『そうだとしても、だ。
 見えない答えはすぐそばにあるものなんだ』

俺を見て辛そうに笑った顔が
やけに印象に残った。

『何か大切なものを逃したとか?』

ハッと俺を見る要人おじさんは、
くしゃっと頭を撫でた。

『おまえ生意気なんだよ!』

それから俺は意識せずに、
誰にも話した事のない自分の気持ちを
素直にさらけ出した。

自分の歩く未来が見えない事
正直言って、貿易の仕事に魅力を感じない事

父親とこんな風に話をした事もなかったし、
仲間ともなんとなく気恥ずかしくて、
できない話。

要人おじさんは、否定や強制をせずに
ただ黙って聴いてくれていた。

久しぶりに楽しくて、時間がたつのを忘れた。

気付くと空が明るくなっていて
一人ソファーに寝かされていた。

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