桜が求めた愛の行方
『サイズもぴったり』
『わかった』
これで母さんが納得してくれるのを
祈るばかりだな。
カードを出そうとした袖が
遠慮がちに引かれる。
『まさか!自分で払うなんて言わないよな?』
威嚇してジロリと睨むと、
さくらは慌てて首を振った。
くそっ!
本当は自分で払うつもりだったな!
やはり離婚するつもりなのか!!
怒りがこみ上げてくるのを抑えると、
もう一度、袖が引かれた。
『ねえ、あの……』
今度は唇を噛んで何か言い淀んでいる。
『どうした?』
『あのね…』
微笑ましい光景と勘違いした先ほどの店員が
、助け船を出してくれる。
『ご結婚指輪がまだのようですが、
ご一緒にいかがでしょうか?』
さくらは店員に背を向けると小声で言った。
『あたがするつもりはないのは、
わかっているわ。でもお式の時に必要なの。
まだ用意できていなくて、
もしよかったらここで……』
俺が指輪をするつもりがないだと?!
まったく、さくらは何もわかっていない!
怒鳴り付けたい衝動を辛うじて押さえ付けた。
いいだろう、さっき決めたんだ。
ここから始めるんだと。
『わかった。だが今度は俺に選ばせてくれ』
『ええ、かまわないわ』
その30分後、大いに満足した俺と
複雑な顔のさくらは、
満面の笑みの店員に送られていた。
さくらの必死に送る拒否の合図を何度も
無視して、ダイヤモンドがはめ込まれた
店の中で最高級のプラチナの指輪を選んだ。
華奢なさくらの指はサイズ直しが必要だと
言われ、急いでもらうのに更に金額を
払う事になると言われる段階に至っては、
彼女は呆れて瞳をぐるりと回しただけだった。