桜が求めた愛の行方
駐車場までの道のり、
さくらは一言も口を聞かなかった。

まったくこの人は何を考えているのかしら?
非難の視線を向けても、
楽しそうに笑われるなんて!

助手席に座ると、彼が眉間に指をあてた。

『機嫌を直せよ。ほら、手を出せ』

『え?』

勇斗が私の左手をとった。
買ったばかりの指輪をケースから取り出す。

彼がしようとしている事に、
心臓がものすごい速さで鼓動する。
まさか、こんな瞬間があるなんて
思ってもみなかった。

『遅くなって悪かった』

光るダイヤモンドが、
まるでスローモーションのように、
ゆっくりと薬指に嵌められた。

ああ、例えこれが偽物だとしても
この瞬間は一生忘れない

泣きそうになってしまいぎゅっと瞳を閉じる。

すると次の瞬間、指に温かい感触がして
ビクッとする。
驚いて瞳を開けると、
情熱で煙る瞳が私を見つめていた。

『綺麗だな』

指輪でなく、瞳を見つめられて
全身がカッと熱くなった。

ほんの短い間だったが、時が止まった。

『次に行くぞ』

咳払いして、勇斗がエンジンを
スタートさせた。

何を言ったらいいのかわからなくて、
お互い黙ったままのドライブ。
それでも車内にあったのは、
浮き立つような甘い空気だった。
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