桜が求めた愛の行方
鏡に写った自分の顔を見て、
さくらは何もかもを捨てて、今すぐに
パリに逃げ帰りたくなった。

『ひどい顔』

深いため息がでる。
別に私は藤木の人間でなくなったとしても
やっていけるわ。
ううん、むしろそうすべきだし。

日本を離れて、ただの藤木さくらとしての
人生を生きる事を真剣に考えていた。
願書を作成していたパティシエの学校は
悪くない人生の選択だと思った。

お菓子作りはパリに来てから、目覚めた特技。
マカロンは周りの友人達に好評だったし
いつか小さなドルチェショップを開くのは
悪くない考えよね。

『馬鹿ね、逃げられる訳ないのに』

チークブラシを持ち直した。
真っ白な顔が少しでも明るく見えるように。

もし今ここに悪魔があらわれて、
パパが事故を起こす前に
時計の針を戻してやる、というならば
喜んで魂を売るのに。

考えても仕方がないことを想像するのは
昔からの悪い癖だわ。

いい加減、覚悟を決めなくちゃ。

腕時計の針は、待ち合わせの10分前を
さしている。

『約束したのよ、やるしかないわ』

白いままの頬をつねり自分を励ますと、
さくらは、重たい足どりで
テラスレストランへ向かった。
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