桜が求めた愛の行方
『まーくん!』

『だからぁいい加減それはやめてって』

『はいはい』

さくらもわかってるし、真斗もわかっている。

お互い大切な存在だからこそ、
慣れ親しんだ呼び方をやめない。

『どうしてここに?』

『さっき兄さんから連絡がきてさ、
 さくねえが1人だからって行ってくれって。
 講義の途中だったんだよ?
 なのに直ぐ行けって、まったく
 すっかり甘やかされてるね』

『そんなこと……』

どういったらいいのかわからくて、
さくらは無意識に指輪を撫でた。

それを真斗は目ざとく見つけ持ち上げた。

『おー!やっと買ってもらったか!!』

意味ありげにニヤニヤ笑った。

『これで僕もお母さんから解放されるな』

『まーくんが余計なこと言うから、
 こんな事になってるのよ』

『ふうーん、余計な事の割には
 ずいぶん嬉しそうに見えるっあっ!痛っ』

さくらは生意気な真斗の耳を愛情をこめて
引っ張った。

『でも良かったよ、さくねえはずっと
 兄さんのこと好きだったもんね』

『なに言ってるの?!』

『隠しても無駄だって……
 大学の時の消防士の彼も、
 パリで知り合った弁護士もどことなく
 兄さんに似てたじゃないか。
 僕はてっきりニールが……』

『佐伯真斗!それ以上言ったら、
 あなたの高校での悪事を、
 おばさまに包み隠さず報告するわよ?!
 いい?例えば音楽講師の……』

『うわっ~ごめんなさい!』

実は真斗はこれまでも形式とはいえ私は
兄の婚約者なのに、恋愛を手助けをしたり
パリに行ったきりの私を、
何度も訪ねてきてくれたり、
常に彼なりに心配し身近にいてくれた。

真斗の方も色んなプレッシャーと
戦っていて、さくらを拠り所にしていた。

二人は本物の兄弟よりも深い絆でお互い寄り添ってきたと言える。

さくらがもし自分に何かあったら、
一番に知らせて欲しいと思うのは真斗。
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