桜が求めた愛の行方
何もかもふわふわとした甘い気持ちに
なれた一日だった。

現実に戻り、衣装を替えたと
おばさまに報告することを思い出すまでは。

重い気持ちで勇斗の車を運転し、
真斗を乗せて佐伯の家へ行った。

そうでなければ、ちょっと遠出させてもらい、ドライブを楽しんだのに。


『僕は部屋に行ってるね』

家に着くなり、玄関で真斗はそう言う。

『えっ?裏切りもの!!』

『何でだよ?!そもそも
 さくねえが母さんに選ばせるから
 こうなったんだろ?』

『だって……』

『何をそんな所で揉めてるの?!』

『あ、お母さん……』

勇斗と真斗の母、佐伯美咲《さえきみさき》は
さくらの少し年の離れた姉だといっても
なんら違和感がないだろう。
今時の言葉だと、美魔女と言われる。
性格も天真爛漫で、佐伯家の男性陣は
逆らえずに、いつも振り回されている。

『あの……おば様、実は……』

気まずさの中、さくらは恐る恐る報告する。

『嫌だ!さくらちゃん、
 本当にあれを着るつもりだったの?!』

逆に驚かれてしまい、拍子抜けした。

『はい』

『まあ!あれはね、勇斗があんまりにも
 さくらちゃんに任せっぱなしだから
 自分が結婚するって事を気づかせよう
 と思ってやった嫌がらせよ』

おばさまはけらけら笑った。

『そうでしたか……』

『やっぱりか』

真斗がため息をつく。

『まさか!さくらちゃんたら、
 あれ、気に入ってたわけないわよね?』

『えっと……』

『もう!そんなんだから、
 俺が兄さんに忠告することになるんだ!
 …っていうか、お母さん、これでもう
 僕をこき使うのはやめてください』

『あら、真斗ったら何の事かしら?
 それより、ちょっと見せて!!』

美咲はさくらの左手を持ち上げて、
大げさにため息をついた。

『あの子にしてはいいセンスだわ、
 ねぇ、真斗そう思わない?』

『どうせさく…うぐっ…』

『私はもっと小さなのでよかったのに、
 勇斗さんが、これにしようって
 言ってくださったんですよ』

さくらは真斗の腕をつねって、
満面の笑みを向けた。

『そっ、そうなんだ…
 ホント兄さんにしてはセンスがいいね』

『本当、これで何もかも完璧ね』

幸せそうなおば様の顔を見て、
この先一生、自分が選んだとは
口が裂けても言えないとさくらは思った。
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