桜が求めた愛の行方
息も絶え絶えで、お互い口も聞けなかった

しばらくして
ようやく勇斗が横に身体を動かした。

こんな体験は初めてのこと。

嵐のように吹き込んできた幸せな感情に
さくらは圧倒されていた。

天井を仰ぐ彼がばつが悪そうに
口を開くまでは……

『悪いっ』

最初の言葉に凍りついた。

あんなに熱くなった身体が、
冷や水をかけられたように冷たくなっていく。

なんて答えていいのか、
喉が張り付いて言葉が出せない。

ふと、さくらを見た勇斗は慌てて
彼女を抱き寄せた。

『ごめんっ』

腕の中で激しく抵抗するさくらに
心底狼狽えた。

『どうして謝るの!』

『おまえの事全然考えてやれなかった
 っていうか……夢中になりすぎた?
 どこか痛くしたか?』

『………それだけ?』

『他に何が?』

勇斗は改めてさくらの顔を見て、
ようやくわかった。

『ばあか』

さくらが誤解だとわかるように、
想いを込めて長いキスをする。

大きな瞳からこぼれ落ちる涙を感じて
唇をずらしてそれを受けとめた。

『俺の事そんな男だと思ってたのかよ?』

『わからない』

『わからないってなんだよ』

『だって……』

『一生懸命わからせたつもりだったけど、
 足りないって事か?』

勇斗は柔らかい胸を優しく揉んだ。

『ばっ馬鹿!』

さくらが顔を真っ赤にして腕の中に隠れる。

そんな彼女が愛しくなって、
ぎゅっと抱きしめて頭のてっぺんに
キスをする。

『俺たち始まりはどうであれ、
 これから上手くやっていけるよな?』

それはさくらが聞きたかった言葉とは
違ったけれど、言葉を追求するのは
馬鹿げている気がして、温かい腕の中で
黙ってうなずいた。

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