桜が求めた愛の行方
目の前にある陶器のように
滑らかな背中に唇を滑らせる。
眠っている彼女は無意識にくすぐったそうに
身をよじるから、前に手を回した。
びくっと身体が跳ねて手を押さえて
甘い吐息が聞こえた。

『起きたか?』

さくらは身体を反転させた。

『早起きね』

『身体、きついか?』

『へいきよ…』

恥ずかしそうに首を振って言うから
たまらない。

『さくら……』

『ずるい』

重ねようとした唇を避けて
なぜか拗ねるように言って、俺の胸に額を
刷り寄せられた。

『なにが?』

『そうやって呼ぶの』

『どうやって?』

いいながら昨夜覚えた彼女のイイところを
確かめる。

『んっ…今まで名前で呼んだこと、
 なかったくせにぃ…』

『そんな事ないだろ?』

額にキスして顔を上げさせると、
見つめた瞳に小さな怒りが見えて
思わず怯んだ。

『あるわよ!
 あなたはいつも私をおまえとかおいとか
 私を名前以外で呼んで!』

さくらはびっくりする俺を見て途端に
小さな声になった。

『……いたから………
 私のこと嫌っているのかなって……』

言い終わらないうちにシーツを被って隠れた。

あれ?
そう言えばこの3ヶ月、
こうして二人きりの時に俺の名前を
呼ばれた記憶がない。

『なあ、もしかして?
 だから俺の名前も呼んでくれないのか?』

シーツの中がこくりと動いた。

『まったく……』

『……呆れた?』

そっとシーツから顔を出す彼女の唇を激しく奪った。
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