桜が求めた愛の行方
ザ・ホテルトーキョー【通称ザ・トキオ】は、
先代から受け継いだ財産を、お祖父様が
大きくした時に建てられた藤木家の象徴
となるホテル。

老舗といわれ格式を重んじたホテル……
パパがそこに新しい風を吹き込むはずだった。

だけどパパはこのホテルを手掛けた所で
あっけなく逝ってしまった。
ああパパが生きていたら……
さくらは心が悲しみに支配されそうになってぎゅっと目を閉じた。

『お帰りなさいませ、お嬢様』

『ただいま立木さん、お久し振りね』

真っ先に笑顔で駆けつけた支配人の立木の顔が
私の顔を見て、途端に曇った。

笑顔に戻すけど、酷い顔だと目が語っている。
やはり不安は化粧なんかじゃ隠せない。

『一段とお美しくなられましたね』

『もう、そんなこと言ってくれるのは
 立木さんぐらいよ』

『まさか!!わたくし、長年色々なお客様を
 こちらで見てきましたが、
 お嬢様ほどの方にはお目にかかれません!』

わざと大袈裟に驚いて見せてくれる。
彼なりの励ましに、微笑んだら
少しだけ緊張が解れた。

『待ち合わせをしているの』

『はい、承知しております。こちらです』

『しばらくは日本にいらっしゃるのですか?』

『ええ、そうなると思うわ』

『それは良かったです!いよいよですね』

いよいよかは、これから決まるのよ。
訳知り顔の立木さんに苦笑いする。

『亡くなった要人社長も、きっとお喜びに
 なられます』

『だといいんだけれど』



彼と婚約したのはちょうど5年前の春……
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