桜が求めた愛の行方
30分後、さくらは都心から少し離れた
高級住宅街へと車を走らせていた。
『あれ?あのレストラン…この道は……』
『気づいた?』
そう新居は勇斗が以前住んでいた
人気のマンションへ向かう道。
『でも売れたって、
あれも母さんの嘘だったのか?!』
さくらは首を振った。
『本当よ。でも運よく最上階が空いたの』
『最上階っておまえ……』
『大丈夫よ、お祖父様が結婚祝にって』
本当はお祖父様からなんて、
何ももらいたくなかった。
私にはそんな資格はない。
でも彼にはある。
だから《祝をやる》と言われて
躊躇いなくお願いした。
『マジか』
『まーくんが、あなたがあのマンションを
とても気に入っていたって言うから
ダメ元で聞いてみたの、
だって私のせいで……』
『おまえのせいじゃない』
ちょうど赤信号で止まると、
怖い顔で見つめられた。
『これまでの俺たちの出来事の中で
おまえが悪かったことなど、
一度もない……』
さくらは黙って頷いて車をスタートさせた。
『それで、管理人さんが最上階のご夫婦の
事を教えてくれたのよ。
気に入って買ったけれど仕事の拠点を海外 に移す事になってしまって、
どうしようか検討中だって』
『ずいぶんと親切な管理人じゃないか』
管理人てどんなやつだった?
勇斗の片眉が上がったのに運転中のさくらは
気づかない。
『そうでしょ!
それでね、話をとおしてくれて
トントン拍子に決まったの』
目の前に懐かしのマンションが見えてきた。
『そうか』
さくらはハンドルを切って地下駐車場に
車を入れた。
勇斗が考え込んでいるので不安になる。
『えっと……余計な事をしたかしら?』
『いいや、嬉しいよ』
エンジンを切って恐る恐る彼を見た。
まだ話さなければいけないことがある。
確実に不機嫌になる、と思う事を。
『ほんとうに?』
『本当だから、そんな顔するな』
安心させるように優しく唇が重ねられた。
『管理人には後で挨拶するから、
とりあえず我が家へ行こう!』
しっかり手を繋がれて歩き出されては
言い出し難くてさくらは黙って
一緒に歩くことにした。
エレベーターに専用のキーを指して、
最上階のボタンを押した。