桜が求めた愛の行方
握りしめていた携帯が鳴った。

『さくらっ?!』

『ゆうと?何かあったの?』

『おまえ、今どこにいる?』

『え?今?佐伯のお家だけど?』

『はあ?そこで何してるんだ?』

『おばさ…違ったお母さまと
 まーくんと一緒に食事してる所よ』

『なんだ……』

脱力してソファーに座り込んだ。

『あなたこそ、どこにいるの?』

『家だよ、久々に早く帰って奥さんの
 手料理をご馳走になろうと思ったら……』

『今すぐ帰るから待ってて!』

『やっいいよ、ゆっくりしてこい』

『嫌よ!!せっかく一緒に食事できる
 チャンスなのに!!
 15分で行くから、どこにも行かないでね』

そう言うなり、電話は切られてしまった。

『おいっ、もしもし?』

ったく、取り越し苦労もいいところだ。

慌てて帰ってくる可愛い妻を想像して
落ちかけていた気分が上がってくる。

結婚してから、料理はさくらの特技の
ひとつだと知った。
お嬢様のくせに変わっている。

しかし毎朝パンを焼くいい臭いや
彼女が淹れるコーヒーはすでに
中毒になりつつある。

会社のコーヒーだって良いものなはず
なのに、家で飲むのとどこか違う?
愛情が入っているからか?

『恥ずかしいやつ』

自分で言って笑ってしまった。

でも油断大敵だな。

俺の奥さんは……俺の奥さん!
いい響きじゃないか!
こっちから言わなければ自分から
要求なんてしないだろうからな。

近いうちに何とか休みを作ろう。
半日でもいい、映画を観て外で食事をする。

自分の考えに満足して勇斗は瞳を閉じた。

あと20分もすれば彼女の音が響き、
家が明るくなる。
それまで少し休もう。
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