桜が求めた愛の行方
入り口で一人の女性がため息をついていた。

すらりと細くてはっきりした顔立ちの
華やかな人だ。
モデルさんか、女優さんみたい。
訪ね人が留守だったのかしら?

さくらは軽く会釈してオートロックの
キーを差そうとした。

『あっ、あの!』

『はい?』

『このマンションの方ですよね?』

『ええ』

『10階に佐伯さんていたのご存知ですか?』

『えっ?!』

『3、4カ月前にはこちらに居たと
 聞いてきたのですが、
 今日訪ねたら別の方になっていて……』

さくらの手から鍵が落ちた。

この人はだれ?
彼とはどんな関係?

『大丈夫ですか?』

彼女が鍵を拾って渡してくれる。

『あっ、すみません!
 あの…私、先月越してきたばかりで
 よくわからないので……』

『ああ、そうだったんですね。
 それに突然、見ず知らずの人間に
 個人情報みたいな事は言えませんよね』

『まあ……あの…その方とはどんな?』

『実は数年前に婚約していたんです』

『えっ!?』

『ちょっとしたスレ違いで喧嘩別れして
 しまって……でも私やっぱり彼が
 忘れられなくて……
 時間が経ってしまったけど、
 もしまだやり直せるならと思って……
 って、やだわ!私ったらこんな話を
 すみません!!』

『いっいいえ』

『変な事で呼び止めてしまって
 ごめんないね、失礼します』

『はい』

ほんの五分もしないやり取りだったと思う。

でもさくらには何時間にも感じてしまった。
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