桜が求めた愛の行方
あの人が勇斗を振った彼女?

きっとそう……間違いないわ

あんなに綺麗で気さくな人なんて
聞いてない。

ううん、そうじゃない

勇斗を捨てた酷い女性だと
都合よく思い込んでいたのは私……

彼は一度だって
彼女の話をしたことはなかったのに。

あんまり幸せすぎて彼女の存在を
忘れていた。

足元がぐらぐらする。

どうしよう……
普通の顔して家に戻る自信ない。

携帯電話をだしてまーくんに電話する。

『どうしたの?忘れ物?』

『ごめんね……無理なのっ…』

『さくねえ?泣いてるの?』

『まーくん、助けて……』

『どこにいるの?!』

『マンションの前』

『すぐ行くから!』

どんな運転をしてきたのか、
真斗は10分であらわれた。

マンションの外にある小さな遊歩道の
植え込みにさくらは座っていた。

『何があった?』

『ごめんね』

『兄さんと喧嘩した?』

さくらは首を振った。

『まだ戻ってない』

『えっ、兄さんには電話したの?』

ううんとまた首を振る。

『いったい何があった?』

『頭が上手く働かない……お願い、
 一緒に家に行って今日は泊まっていって。
 明日の朝、彼が出掛けたら、ちゃんと
 説明するから……』

『わかったよ』

今日は彼と二人きりになりたくない。

変な事を口にして、喧嘩なんてしたくない。

『まーくん、ごめんね』

『いいよ』

真斗は、さくらの肩に腕を回して
エレベーターに向かいながら、
泊まる理由に頭を捻った。

兄さんが機嫌悪くなるのは仕方ない
としても、追い出されないようにしないと。

エレベーターが最上階へ向かう。

『さくねえ、そんな顔してたら
 僕は玄関で帰されちゃうよ。
 何があったにせよ、とにかく今は
 気持ち切り替えて』

『まーくん、ごめんね』

『ほら、適当に料理を出してくれたら
 兄さんと話してるからさ、
 得意の凝ったスイーツとか作って
 集中したらいいよ』

『まーくん、ごめんね』

『あー!!もうわかったから!』

エレベーターの階数の表示が
カウントダウンしている。

扉の開く音が合図、
それまであとほんの少し……
今はまーくんに謝ることだけで
精一杯だった。
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