桜が求めた愛の行方
『なあ?田所は、さくらと真斗が
 仲が良いの知ってた?』

『さくら様と真斗様ですか?』

田所透《たどころとおる》
この人と初めて会ったのは、俺がまだ
高校生の時だった。
スタイリッシュな外見とやる気に満ちた
仕事振りで、要人さんに信頼された人。

まさかその人が、社会に出たとたん
自分の秘書になるとは思わなかった。
俺がもうすぐ藤木の社長になるっていうのも想像していなかったが……

最初、親父はどういうつもりで
藤木からこの人を引き抜いたのだろう
と、不思議だった。
まさか、さくらとの婚約がこんな事にも
繋がっていたとはな……

全てはここに来るためだったと思うと
少し悔しい気もするが、今となっては
自分が仕事をする上で欠かせない人だから
文句の言いようがない。

『昨夜、真斗が家に来たんだが、
 俺の知らないさくらを知っているから』

『それでしたら、もちろんです。
 私が藤木に入社して社長に…要人様に
 目をかけてもらうようになった時には、
 さくら様の側にはいつも真斗様が
 いらっしゃいましたよ。
 私は社長に聞くまでお二人が
 ご兄弟だと思っていましたから』

『そうか』

『……?ご心配するような関係はないと
 言い切れますが?』

『言い切れるのかよ』

『はい』

断言する田所に勇斗は笑った。
自分とて二人の関係を本気で疑った訳では
ない。

さくらは俺を見る瞳で真斗を見ていない。
情熱とは違う温かい静な炎のようだ。
たださくらと真斗の間にあるものが、
俺には掴めないだけ。
あの空気には一生入れないだろうな。

それにしても……とまた思う。

昨夜は真斗がいるからと初めてさくらに
拒否された。
たっぷり可愛がるつもりで早く帰ったのに。
弟とは言え、とんだ邪魔者だ!

しかし、さくらに感じた違和感は
全部真斗のせいだろうか?
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