桜が求めた愛の行方
『あの頃、僕はまだ高校生で……
 知っての通り家族とはちょっと距離が
 あったから、兄さんが付き合っていた
 女性の事はわからないんだよね。
 でも前にも言った通り、さくねえがパリに  行ってすぐの頃、兄さんが凄く荒れてた
 事があって、きっと女の人と何かあった   たんだ、って思ったよ』

『ええ』

『僕が調べてみるよ』

『ダメよ!!』

『さくねえさ、やっと幸せになれたのに
 それを自分から壊すような事するの
 やめなよ』

『そんなこと……』

『兄さんの事ずっと好きだったろ?
 その薬指はさくねえが勝ったってこと。
 自信を持って兄さんの側に居ろよ』

『でも……』

にやっとまーくんが笑った。

『なに?』

『さくらちゃん、
 気付いてないみたいだから教えてあげる』

まーくんが急に昔の呼び方をするから
驚いた。

『なっ何を?』

『僕はね、戸籍のうえでも義理とはいえ 
 弟になったんだよ?!
 家族を助けるのは当たり前だろ?』

家族………

わかっていたはずの当たり前が、
まったく別の形で、さくらの心に温かいもの
となって、ストンと落ちてきた。

『だからさ、僕を頼っていいの……
 あーもーどうすんのその顔!!
 今、兄さん帰ってきたら間違いなく
 僕が殴られるよ、って、うわっー!』

さくらは、よろけそうになる真斗にぎゅっと
抱きついた。

『不思議よね?私はどうして
 まーくんに恋しなかったのかしら?』

近すぎたからさ……
そして兄さんより先に生まれなかったから
……真斗は心の中で答えた。

『それは神様の意地悪だよ』

《なにそれ?》と腕の中で笑っている存在を
真斗は瞳を閉じて抱きしめた。

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