桜が求めた愛の行方

ニールは国際弁護士資格をもつ企業弁護士。
企業顧問を主としている大手の事務所に
就職し、今は海外支社を拠点に世界中を
飛び回っている。

パリにいた時は、ほぼ毎日一緒に過ごした。
帰国前、お願いしたい件があって、
ニールには、勇斗に隠している全てを
話してある。

『頼まれてた書類作ってきたよ。
 あとはさくらがサインするだけ』

『ありがとう。ごめんね、忙しいのに』

『気にするなって、でも本当にいいのか?』

『ええ、いいの』

『そっか』

『ニールは今回、長くいられるの?』

『んー実はさ、働き過ぎだとチェックが
 入っちゃって、今回は会社から強引に
 バケーションを取らされた』

『やだ、本当!?
 そう言えばあなたの方が顔色が悪く
 ない?ちゃんと食べてるの?
 働き過ぎって、ニールはワーカーホリック  だって真斗も心配していたのよ』

『真斗が?』

『はい、それはいいから。
 身体は大事にしなくちゃダメよ!』

『はい、ママ。だから今回はトキオに
 泊まる事にしたよ』

『え?』

『あそこのスパでのんびりする』

ニールがいうトキオとは、
ザ・ホテルトーキョーの事。

プールエリアをリゾート感覚のスパに
全面改装してから、
都会のオアシスとしてテレビや雑誌に
何度も紹介され、常に一年以上先まで
予約で埋まっている。

『よく予約が取れたわね?』

『ベイビー、君の名前を出せば
 今からだってなんの問題もないよ』

『信じられない!もぉー』

ニールのなぜか憎めないちゃっかりは、
出会った時からちっとも変わらない。
それが懐かしくて、さくらは
怒るより先に笑ってしまった。

『もちろん、部屋の予約も私の名前を
 使ったのね?』

『はぁ…傷つくなその言い方……
 僕を誰だと思っているの?
 もちろん、アップグレードには快く応じる  つもりだよ』

『ニールったら、もう!大好きよ!』

『ほらな、だから君は永遠に僕の
 スイートハートなのさ』

『もう!あなたって人は……さっ、乗って』

ニールがヒューと、口笛を吹いた。

『ベイビー、君はいつからこんな
 見せびらかし屋になったんだい?』

『あら?今ごろ気付いたの?』

さくらは笑いながら助手席のドアを開けて、ニールを乗せた。

これはもう私の車よ。
忙しくて乗る暇がないでしょって、
事故が心配と渋る彼から強引に鍵を奪った
けど。

エンジンをスタートさせる。

『ねぇ、ニール?
 ダーリンはいい趣味してるでしょ?』

『僕に向かって惚気るなんて、生意気!』

『えー今からたっぷりダーリンの話を
 するところなのにー』

『おえっー』

ニールが吐く振りをする。

目的地はザ・トキオ。

久しぶりに親友と再会できて
楽しいドライブになりそうだとさくらは
笑った。
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