桜が求めた愛の行方
ホテルのスイートルームで
ドレスの試着が行われている。
『さすが、本場でご活躍のモデルさんは
違いますね!』
『何を着てもきまってらっしゃる』
国内トップのドレスメーカーの担当者達は
先程から手放しで彼女を誉めちぎっていた。
彼女の指定で、わざわざここまでドレスを
持参して、衣装合わせをしている。
それにしても……
責任者の鈴木は首を捻った。
なぜパリコレで活躍する彼女が
参加するのだろう?
上からきたメインモデルの起用に
現場の者達はみな驚き、不思議に思った。
高々と言っては申し訳ないが、
一時の人気からは随分落ち込んでいる
ホテルのブライダルショーなんかに
一流モデルの彼女がなぜ?
『それで相手のモデルはどうなりました?』
『それが……あのまだ……』
彼女の要求するモデルが中々見つからない
そもそも、近年はテレビを賑わすタレントを
起用して、マスコミに注目されるのが
ブライダルショーの定番。
今回はブライダル雑誌とコラボしているが
どちらかといえば、ホテルの宣伝がメイン
のウエディングショーだ……
そんなコレクションに国内トップモデルが
進んで参加する訳がなく、鈴木は彼女と釣り合うモデルを探すのに苦労していた。
『それでしたら……』
『どなたかお心当たりが?!』
『小耳に挟んだのだけど、主催者の
担当専務さんがモデルさんのようだと』
『はあ……??』
『鈍いわね!!』
『申し訳ありません!!』
『いい?どうせ見つけられないなら
いっそ、その専務さんに頼んで見なさい!
って言ってるの!!』
『ですが、藤木専務はモデルでは……』
『そんなの当たり前でしょ!!
でも彼は最近結婚したばかりだし
ホテルのいい宣伝になる、とかなんとか
言って説得すればいいのよ!』
『はいっ!!』
おや?と鈴木は思った。
確かに藤木専務は、先月ご結婚されたばかり
だが、なぜ彼女はそのことを?
『いい?相手のモデルは彼にして。
それでなければ、このショーはなかった
事になるわよ』
『そっ、それは!!』
鈴木は慌てた。
ここまで準備してきて、それはない!
そんな事になればブライダル部門を縮小する
という噂に拍車がかかる。
ベイサイドホテルとて、うちの参加がなければ、今後の客足に大きな影響があるだろう。
頭の中で専務を説得する理由が浮かび
担当者は大きく頷いた。
『わかりました、必ず藤木専務をお相手に』
『よろしくね』
彼女は来ていた深紅のドレスにぴったりの
笑みを浮かべた。