桜が求めた愛の行方
『さあベイビー、思いっきり泣いていいよ』

ニールが大きく腕を広げた。
迷わず飛び込んで小さな子供のように
わんわんと声をあげて泣いた。

色んな感情が堰を切って溢れて、
どうしたらそれを止められるのかも
わからないまま、ただただ泣き崩れた。

どれくらいそうしていたのだろうか、
止まらない涙のまま気を失ってしまった。

気づくとベッドに寝かされていて、
傍らに心配そうな顔のニールが座っていた。

『はい、お水』

ペットボトルを渡されて、
ありがとうと言おうとしたら、
声が掠れて喉が痛かった。

『いいから、あれだけ泣いたら身体の
 水分殆ど出ちゃったと思うよ、
 干からびる前にちゃんと飲むんだ』

ニールの優しさに涙が溢れてくる。

『もーミイラになったらどうするんだよ』

ニールは本当に困った顔をして、
ペットボトルの蓋を開けると、
強引に私の口につけた。
ごくごくと冷たい水が焼けるような喉を
冷やしてくれる。

『どうして?』

『ブライダルモデルの件で、
 書類の事をすっかり忘れてるだろ?』

ニールは笑って言った。

『あっ』

『慌てて追いかけたらさ、
 レストランに入るのが見えて……
 さくらはなぜか柱に隠れたから、
 僕もその後ろに隠れてたよ。
 視線の先にいたのはダーリンだよね?』

さくらがうなずくと、励ますように
手が握られた。

『……どこから聞いていたの?』

『うーん、仕方がない事情だった……
 辺りかな?』

『ニール、わたし離婚……』

『少し様子を見たら?』

『そんな事できないわ!あの二人の間に
 私が割り込んだのよ!』

『そうは思わないけど?』

『私が結婚を進めなければ、二人は今頃
 やり直していたはずよ!』

『じゃあ、そう聞いてみたら?』

『そんな事……』

『聞けないんだろ?
 いいかい、この状況で僕が旦那の味方を
 するのもおかしな話だけど、彼は君を
 偽者じゃないと、否定していたよ』

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