花嫁に読むラブレター

 そんなことを考えているうちに、ぱたぱたと足音が響いて近づいてきた。

 マイアは身構え、息を止めて廊下の奥を見つめる。額にじんわりと浮かぶ汗を感じつつ、マイアは唾を何度も飲み込んだ。

「あらあら、随分遅かったのねえ」

 間延びする声で言い、姿を現したのはとても清潔感のある女性だった。

 羽根が舞うように駆けてきて、マイアの目の前で止まると、極めて自然な笑顔を向けた。誰もが羨むような美貌を持ちながらも、他者に羨望や嫉妬を与えさせない、なんとも気持ちの良い女性だった。

 少し癖のある髪質は、ユンにそのまま受け継がれたのだろう。長い薄茶色の髪が胸元で揺れている。穏やかそうな目元も、まるでユンを見ているようだった。

 おかげで、緊張していたはずのマイアに、ゆっくりと平常心が戻ってきた。

 きっと、この方がユンのお母様なのだろう。確信に近い納得があった。

「ただいま、母さん」

「ユンってば、どうしてこんなに遅いの? せっかくパイを焼いて待っていたのに、こんな時間じゃもう食べられないじゃないの」
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