花嫁に読むラブレター

 あてがわれた部屋は、二階の一番奥の部屋だった。

 マイアは部屋に入るなり、小走りに窓際に寄る。大きな窓を両手で引き上げると、風が入り込み薄手のカーテンをふくらませた。

 まとめていた髪をほどくと、マイアの長い髪も踊るように揺れた。

 窓枠に身を乗り出し、空を仰ぐように夜空を眺めれば、満天の星空がきらきら輝くのが見える。続いて視線に飛び込んできたのは、さきほどマイアたちが通ってきた庭園だった。暗い空の下でもその鮮やかさが手に取るようにわかる。色とりどりの薔薇たちは、今はひっそりと息をひそめて、陽が昇るのを今か今かと待ちわびているように見えた。

 流れてくる風はどことなく潮の香りを含み、ひっそりと静かな夜に潮騒が今にも届きそうである。

 マイアは振り返り、目を輝かせた。

「ユン! 見て、今日は満月よ」
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