花嫁に読むラブレター

 やっと、落ち着ける場所に戻ってきた。

 顔には疲労が仮面のように貼りついている。だが、それもあと少しの辛抱だ。マイアの無邪気さは、どんな腕利きの揉み治療よりも安らぐ。ユンにとっての万能薬だ。

 最近は、それに加えて女らしさを覗かせるようになってきた。ふとした横顔や、窓に寄ってきた小鳥に微笑を浮かべる彼女に、本能で触れたいと願ってしまう。

 けれど、まだ――。

 恥ずかしさ以上に、躊躇ってしまう心の葛藤がユンの中で渦巻いている。

 自分に自信がないだけなのかもしれない。けれど、マイアの笑顔を見るたびに、自分を見ているはずなのに違う誰かを見ているような気分に陥る。たとえそうだとしても、共にいられるだけでいい、と願ったはずなのに。笑顔を独り占めできるだけでいい、と満足したはずなのに。ひとつの欲が満たされれば、人間は次の欲を求めようとする。終点のない階段を延々と上らされているようで、ユンは自分のそんな思いを時に恐ろしくも感じた。

 出会った頃のままの幼いマイアならば、このような葛藤を抱かなかっただろうか。ただ傍にいるだけで温かく、童心にかえったように無垢な心でいさせてくれた。今でもそれは変わらない。けれど、マイアの女らしさを目の当たりにすると、彼女の気持ちなんてお構いなしに抱き寄せてしまいたい衝動に襲われる。
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