花嫁に読むラブレター

 レナータが、体当たりをするように扉を開いた先は、マイアが過ごしているはずの部屋。いつも穏やかに笑みを浮かべ、常に一歩後ろを歩くような控えめな様子はまったくなかった。今にも誰かを殺しに行きそうなものものしい雰囲気が、レナータの後ろ姿から感じられ、ユンはその場に硬直する。

 レナータが室内に姿を消すと、辺りに暗い静けさが漂った。

 階下で、人の生活する音が聞こえるのが、妙に恐ろしく感じた。厨房で水を流す音、引き戸を開閉する音、誰かが廊下を走り去る音――。

 ユンは妙な胸騒ぎを覚え、足早に廊下を進んだ。

 いつもと違う様子のレナータも、その先にあるのがマイアがいる部屋だということも、なにもかもが不安でしかたなかった。

 部屋の扉はわずかに開いていた。

 ユンは、入口で足を止め、中を覗く。

 まだ眠っていたのだろうマイアの首を絞めているレナータが視界に飛び込んできた瞬間、ユンの中で何かが弾けた。
< 169 / 227 >

この作品をシェア

pagetop