花嫁に読むラブレター
ユンと結婚し、違う家族として生活の軸を変えたマイアに、常に危険と隣り合わせの生活をしている自分の身を心配させたくなかったのだろう。知らないのなら、知らないままのほうがいいこともある。何かあるたび、怪我をしていないか、生きているのか、そんな憂慮を抱えた生活なんて、幸せだといえるはずがない。ステイルなりの、優しさだったのだと、今ならわかる。
その優しさは、恋情ではない。
彼の性格を考えれば、すぐにわかったはずなのに。人としての、当たり前の気遣いだったと。
「――なんで、何も言わないの」
レナータの、ひときわ低い声が耳元で聞こえた。
「返してよ! ユン様を返しなさいよ!」
マイアの腕を振りほどき、レナータはナイフを手にしたまま馬乗りにマイアを見下した。長い黒髪が垂れ、レナータの顔を隠した。
何度も返してと怒鳴るレナータの声が、やがて震えだす。
ただされるがまま、寝台の上であおむけにレナータの様子を見守るしかできなかったマイアの頬に、ひとつ、ふたつ、と滴が落ちてきた。