花嫁に読むラブレター

「ユン様……」

「マイアさんを返して」

 マイアは背中に届くユンの声を聞いた。少し震えているように聞こえる。何がそうさせているのか、表情を見て確かめたかった。けれど、それよりも羞恥心が勝ってしまって、振り返られずにいる。

 大粒の涙が、握った拳に落ちていく。

「ユン様、あの、これは――」

「全部見てた。ごめん、ぼくはレナータのことを心底憎みそうだ……。だから、今はマイアさんをぼくに返して」

 全部見ていたという言葉に、マイアはレナータの顔すら見ることができず、視線を外し俯いた。泣き笑いのような表情を必死に浮かべ、頭を下げながらマイアの横を急ぎ足で通り過ぎていくレナータの残り香だけを感じていた。

 遠くなる足音と、近づいてくる気配。

 俯いた視線の先に、ユンの足元が見えた。

 立ち止まり、無言でマイアを見下ろしている。すべての音が消えてしまったかのように、沈黙が二人の間を漂っていた。風が強くなってきたのだろう。時おり窓を叩く音がやけに大きく耳に残る。
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