花嫁に読むラブレター

 不安がなかったわけではない。けれど、マイアにはどうすることもできないのだ。ただ、一日一日を大切に、今日見る太陽が最後かもしれないと常に暗い悲しみを抱えて過ごしてきた。それでも、今を生きている一瞬すべてが幸せであるのも確かなのだ。温かい部屋で笑顔になれる。美味しいものを食べて、美味しいと言える。フィーネやカーヤの何気ない優しさに、自分も彼女たちに何か幸せを与えたい。そう思える瞬間が、とても好きだった。

 だからこそ、フィーネの言葉は幸せの日々を崩していくきっかけのように思えた。砂で作ったお城のてっぺんが、少しずつ高さを失っていくように。提案のように聞こえるフィーネの柔らかい声は、実はもうすぐそこまで危険が迫っているのだと、暗に語っているようなものだ。きっと、この一言をマイアに告げるまで、何度も悩んでは夜分に目を覚ましたのだろう。

「またユンと暮らせるのね。楽しみが増えたわ」

 地団駄を踏むような激しい鼓動が、マイアの不安を表していた。けれど、マイアは心の中の暗い気持ちをぎゅっと押し込め、笑顔を作ってみせた。

 フィーネが次の瞬間見せた笑顔――を作ろうとして失敗した、なんとも言えない表情が、この後ずっとマイアの中から消えてくれなかった。

 窓の外に視線をやると、秋はもう終わろうとしていた頃だった。
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