花嫁に読むラブレター
「知ってる、みんな噂してるから」
マイアがちらりと隣を見ると、ステイルの短い黒髪が、風にさわさわと揺られている。朝も晩も、時間をかけて手入れをしても、櫛を通すたびに絡まり箒の先のように広がる髪を持つマイアは、彼のさらさらの髪を見るといつも憤りを感じる。髪を洗ったあとそのまま布団にもぐってしまうようなステイルのほうが綺麗な髪だなんて、と。
マイアの視線に答えるように、ステイルもマイアの目を見た。
今、街の貴族さまの間で流行しているお人形に似た、とてもきれいな顔立ち。すっと通った鼻梁に、花びらをのせたようなほんのりピンク色の薄い唇。滅多に表情を動かさないため、いつもぼんやりと希薄な印象を与えるが、彼と目が合うと、どきりとする。まばたきの少ない黒目の大きな瞳で見つめられると、嘘をついても知られているような恐怖もある。とても力強くて綺麗だけど、マイアは少しだけステイルの目が怖かった。
今もそうだ。