花嫁に読むラブレター
けれど、ステイルはマイアの言葉にナイフのような視線を向けた。
「そんなくだらない理由で決めるものじゃないよ。まさか僕のためとか言わないよね。そんなことしてみな、僕は二度とマイアと口きかないから」
静かに立ち上がり、ステイルはお尻についた草を手で払うと、マイアに背を向け家の中に姿を消した。
(……そんなこと、わかってる)
ステイルは、施設の中で誰よりも誠実な青年だ。去年成人したばかりの彼は、マイアとひとつしか歳は変わらないのに、もっともっと年上のように感じる。道端で転ぶ子供がいれば手を差し伸べ、捨て猫を見つければ迷うことなく連れ帰ってくるようなステイル。彼が、マイアの言葉に喜ぶなんてこれっぽっちも思ってはいなかった。
ただ、結婚に反対して欲しかった。
ああ言えば、そこまでして自分を思ってくれているのかと感動し、自分を求めてくれるのではないかという汚い気持ちが裏にあった。しかし、ステイルは聡い。きっと気づいている。マイアの心の内なんて、あの黒目の大きな目で見透かされているのだ。
自分の小ささ。拙さ。醜さ。
――わたしは、なんて子供なのだろう。
そう思ったら、マイアの目尻に今度こそ涙が浮かんだ。